SNSで匿名アカウントから誹謗中傷を受けたものの、裁判にはいくら必要なのか、投稿者を特定するだけで高額な費用がかかるのではないか、慰謝料を受け取っても赤字になるのではないかと不安を感じている人は少なくありません。
匿名投稿への対応では、投稿者が最初から判明している一般的な損害賠償請求とは異なり、SNS運営会社や接続プロバイダを通じて発信者を特定する手続きが先に必要になるため、削除、特定、示談交渉、損害賠償請求をどこまで行うかによって総額が大きく変わります。
裁判所に納める申立手数料だけを見ると数千円から数万円程度で収まる場面もありますが、実際の負担では弁護士の着手金、成功報酬、郵送費、翻訳費、登記事項の取得費、出廷日当などが大きな割合を占めるため、裁判費用と弁護士費用を分けて考えることが重要です。
また、誹謗中傷と感じる投稿がすべて法律上の権利侵害になるわけではなく、投稿者を特定できても請求額の全額が認められるとは限らないため、感情的な納得だけで手続きを進めず、証拠、権利侵害の明確さ、想定回収額、再投稿を防ぐ必要性を総合的に検討しなければなりません。
以下では、2026年6月時点の裁判所や公的機関の案内を踏まえ、SNS上の匿名誹謗中傷に対する費用の内訳、発信者情報開示の流れ、費用倒れを避ける判断基準、支出を抑える方法を整理しますが、個別事件では投稿内容や相手方によって結論が異なるため、具体的な対応はインターネット事件を扱う弁護士へ確認してください。
SNSの匿名誹謗中傷で裁判にかかる費用の全体像

SNSの匿名誹謗中傷に対応する費用は、裁判所へ支払う金額だけでは判断できず、投稿の保存、削除請求、発信者情報開示、投稿者との交渉、損害賠償請求という複数の段階を合計して考える必要があります。
投稿者が判明していない状態から弁護士へ一連の対応を依頼すると、標準的な一件でも数十万円単位の予算が必要になり、複数の投稿、複数のアカウント、海外事業者、削除仮処分などが絡めば総額が100万円を超えることもあります。
一方で、運営会社への通報や任意削除だけで目的を達成できる事件もあるため、最初からすべての裁判手続きを選ぶのではなく、自分が求める結果に必要な範囲を見極めることが費用管理の出発点です。
費用は三段階で考える
SNSの匿名投稿に対する法的対応では、発信者を特定する費用、特定した相手へ責任を追及する費用、投稿そのものを消す費用という三つの支出があり、それぞれ別の手続きとして料金が設定されることがあります。
たとえば、発信者情報開示によって氏名と住所が判明しても、その手続きだけで慰謝料が自動的に支払われるわけではなく、別途、内容証明郵便による請求、示談交渉、民事訴訟などを行わなければならない場合があります。
反対に、投稿者の特定には成功したものの資力がなく、判決を得ても任意に支払われない場合には、預金や給与などを対象とする強制執行を検討する必要が生じ、回収段階でも追加費用と時間がかかります。
- 投稿の削除や非表示
- 匿名投稿者の特定
- 謝罪や再投稿禁止の合意
- 慰謝料や損害の回収
- 刑事責任を求める相談
依頼前には、どの段階までが提示された料金に含まれるのかを確認し、開示に成功した時点、示談が成立した時点、金銭を実際に回収した時点のどこで成功報酬が発生するのかを書面で明確にしておく必要があります。
投稿を早く消したい人と、投稿者の氏名を特定して責任を追及したい人では選ぶ手続きが異なるため、目的を整理せずに一括依頼すると、必要性の低い手続きにまで費用をかけてしまう可能性があります。
裁判所へ納める費用
裁判所へ納める申立手数料は、一般に弁護士費用より小さいものの、手続きの種類、請求額、相手方の人数、書面申立てか電子申立てかによって金額が異なるため、古い早見表だけで予算を決めないことが大切です。
東京地方裁判所の発信者情報開示命令に関する案内では、開示命令、提供命令、消去禁止命令について、それぞれ一申立てにつき1000円の申立手数料が必要とされ、当事者が複数の場合には人数に応じた加算が生じると案内されています。
損害賠償請求訴訟の手数料は請求額に応じて決まり、2026年5月21日以後に提起される新法適用の民事訴訟では、請求額100万円の場合、書面申立ては1万2500円、電子申立ては1万1400円とする最新の早見表が公開されています。
| 手続き | 裁判所費用の例 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 開示命令 | 一申立て1000円 | 相手方の人数で加算 |
| 提供命令 | 一申立て1000円 | 開示命令とは別扱い |
| 消去禁止命令 | 一申立て1000円 | ログ保全に利用 |
| 100万円の訴訟 | 書面1万2500円 | 新法適用事件の例 |
| 100万円の訴訟 | 電子1万1400円 | 新法適用事件の例 |
これらは申立手数料の例であり、レターパック、書類の直送費、証明書取得費、翻訳費、弁護士費用などは別に発生するため、裁判所へ支払う金額だけを見て裁判全体が安いと判断してはいけません。
民事訴訟の手数料は制度改正や申立方法によって変わるため、実際に提起する段階では裁判所の手数料案内と申立先の裁判所で最新情報を確認する必要があります。
発信者情報開示の弁護士費用
匿名アカウントの氏名や住所を特定する発信者情報開示は、SNS運営会社だけでなく、通信に利用された接続プロバイダへの対応が必要になることがあり、弁護士費用の中でも大きな支出になりやすい手続きです。
公開されている法律事務所の料金を見ると、着手金と報酬金を合わせて数十万円となる例が多く、事案が標準的でも30万円から80万円程度を一つの検討範囲とし、複数投稿、複数事業者、海外法人への送達がある事件では100万円以上を想定する場合があります。
ただし、弁護士報酬には全国一律の公定価格がなく、投稿一件ごとの定額制、手続き一件ごとの着手金、開示された人物一名ごとの報酬、作業時間に応じるタイムチャージなど、事務所によって計算方法が異なります。
一つの投稿に見えても、SNS事業者から接続先情報を得る段階と、接続プロバイダから契約者情報を得る段階が分かれることがあり、最初の見積額に後半の手続きが含まれていなければ、途中で追加着手金が必要になります。
相談時には、開示が認められなかった場合の返金、追加投稿を同時に扱う料金、同一人物による複数アカウントの扱い、海外事業者への対応費、損害賠償請求へ移行する際の割引の有無を確認すると総額を比較しやすくなります。
投稿削除に必要な費用
投稿の削除は、SNSの通報フォームを利用する方法、運営会社へ任意の削除請求を送る方法、裁判所へ削除仮処分を申し立てる方法などがあり、どの手段を選ぶかによって費用が大きく異なります。
自分で利用規約違反を報告するだけなら基本的に弁護士費用はかかりませんが、運営会社が削除に応じない場合や、権利侵害を法的に整理した申立書が必要な場合には、数万円から数十万円の弁護士費用が発生する可能性があります。
裁判所の発信者情報開示命令は投稿者の情報を得るための制度であり、その事件の中で投稿削除まで命じてもらうことはできないと裁判所が案内しているため、特定と削除を両方求める場合は別の手続きを組み合わせる必要があります。
同じ投稿について削除と開示を同時に依頼すると料金を調整する事務所もありますが、削除仮処分、開示命令、ログ保存、損害賠償をすべて別事件として計算する事務所もあるため、単価よりも事件全体の見積総額を確認することが重要です。
削除だけで被害の拡大を止められるケースでは費用を抑えられますが、削除後に証拠が失われると開示や損害賠償が難しくなる可能性があるため、URL、投稿日時、アカウント情報、前後の文脈を保存してから削除を求める必要があります。
損害賠償請求の弁護士費用
投稿者を特定した後の損害賠償請求では、裁判外の示談交渉だけを依頼するのか、地方裁判所や簡易裁判所へ訴えを提起するのかによって着手金と実費が変わります。
公開料金では、交渉や訴訟の着手金として10万円から30万円程度を掲げる事務所や、回収額の10%台から20%台を成功報酬とする事務所が見られますが、最低報酬額が設定されていると少額回収でも一定額の報酬が必要です。
発信者情報開示から継続して依頼する場合には損害賠償請求の着手金が割り引かれることもありますが、開示を担当した弁護士と別の弁護士へ依頼し直すと、記録の確認や方針の再検討に費用がかかる場合があります。
訴訟で勝ったとしても、依頼者が実際に支払った弁護士費用の全額を相手へ請求できるとは限らず、裁判所が相当と認める範囲に限って損害として加算されるため、勝訴すれば自己負担がゼロになるという理解は正確ではありません。
示談では慰謝料だけでなく、投稿の削除、謝罪文、再投稿禁止、接触禁止、違反時の違約金などを話し合えるため、回収額の大小だけでなく、将来の被害防止によって得られる利益も含めて訴訟との費用対効果を比較することが大切です。
見落としやすい実費
SNSの誹謗中傷事件で予算を超えやすい理由は、着手金と成功報酬以外にも、郵便、交通、翻訳、資格証明書、登記事項証明書、通信記録の調査など、事件ごとに異なる実費が積み重なるためです。
海外に本社を置くSNS事業者が相手になる場合には、外国法人の資格証明、申立書の翻訳、国外送達に関する作業が必要になり、国内事業者だけを相手とする事件より時間と費用が増えることがあります。
裁判所で期日が開かれるたびに日当が発生する契約や、遠方の裁判所へ出向く際に交通費と宿泊費を請求する契約もあるため、オンライン期日が利用できるか、日当が着手金に含まれるかを確認する必要があります。
日本弁護士連合会の弁護士費用案内でも、弁護士費用には着手金、報酬金、手数料、法律相談料、日当、実費などがあると説明されており、相談時には総額の見通しを確認することが勧められています。
見積書に実費別途とだけ書かれている場合は、通常想定される実費の金額、追加費用が発生する条件、一定額を超える前に連絡を受けられるかまで質問しておくと、手続き開始後の料金トラブルを防ぎやすくなります。
慰謝料だけでは赤字になる可能性
SNSの誹謗中傷で認められる慰謝料は、投稿の内容、拡散範囲、継続期間、被害者の社会的立場、実生活への影響、投稿者の対応などによって判断されるため、請求した金額がそのまま認められるわけではありません。
匿名投稿者の特定に数十万円を使い、損害賠償請求にも追加費用を支払った一方で、認められた慰謝料が低額にとどまれば、金銭面だけを見ると支出が回収額を上回る費用倒れが起こり得ます。
発信者特定にかかった調査費用や弁護士費用の一部が損害として認められる場合はありますが、実際に負担した全額が当然に認められる制度ではなく、必要性や相当性を裁判所が個別に判断します。
そのため、依頼前には想定される慰謝料の幅だけでなく、開示に失敗する可能性、投稿者に支払能力がない可能性、判決後に強制執行が必要になる可能性を含めた複数の収支パターンを作る必要があります。
赤字になる可能性があっても、実名特定、謝罪、再投稿防止、職場や家族への被害拡大の阻止を重視して手続きを行う人はいるため、費用対効果は回収額だけでなく、自分が守りたい利益を基準に判断することが重要です。
匿名投稿者を特定して請求する流れ

匿名投稿への対応は、投稿者へ直接訴状を送るところから始まるのではなく、証拠を保存したうえで、SNS運営会社や接続プロバイダが保有する情報をたどり、氏名や住所を特定する段階から始まります。
情報流通プラットフォーム対処法に基づく発信者情報開示命令により、従来より一体的に審理できる仕組みが設けられていますが、投稿方法や保有情報によっては複数事業者への対応が必要です。
通信記録が永続的に保管されるとは限らないため、費用を検討する場合でも証拠保全と初回相談を先延ばしにせず、手続きの見込みを早い段階で確認する必要があります。
証拠を消える前に保存する
最初に行うべきことは、投稿本文だけでなく、URL、投稿日時、アカウント名、プロフィール、画像や動画、引用元、返信欄、閲覧数など、権利侵害と拡散状況を判断できる情報を保存することです。
画面の一部分だけを切り取ると、投稿者が誰を指していたのか、前後の会話がどのような内容だったのか、公開範囲がどこまでだったのかを説明できず、開示請求や損害賠償請求で不利になる場合があります。
スマートフォンのスクリーンショットに加え、ブラウザでURLが見える状態を保存し、動画は画面録画を行い、投稿を知った経緯や仕事上の損害が生じた日時も時系列で記録しておくと相談が進みやすくなります。
- 投稿全文と固有のURL
- 投稿日と保存日時
- アカウントのプロフィール
- 前後の返信や引用投稿
- 閲覧数や共有数の表示
- 仕事や生活への影響
相手へ反論するために投稿を引用拡散すると、被害情報を自分で広めたり、感情的な応酬が新たな問題になったりするため、証拠を保存した後も公開の場でのやり取りは慎重に行うべきです。
自分での保存方法に不安がある場合には、投稿が残っているうちに弁護士や違法・有害情報相談センターなどへ相談し、削除依頼と証拠保全の順序を確認すると安全です。
開示命令で情報をたどる
発信者情報開示命令では、SNS運営会社などのコンテンツプロバイダと、投稿者が通信に利用した接続プロバイダが保有する情報を手続きの中で結び付け、発信者の氏名や住所の開示を目指します。
提供命令は、SNS運営会社などに対し、接続プロバイダを特定するための情報を申立人へ提供したり、接続プロバイダへ情報を提供したりするよう求めるために利用されます。
消去禁止命令は、開示判断が行われる前に必要な発信者情報が消去されることを防ぐための手続きであり、通信記録の保存が問題になる事件では早期に検討されます。
| 手続き | 主な目的 | 得られる結果 |
|---|---|---|
| 開示命令 | 保有情報の開示 | 氏名や住所など |
| 提供命令 | 事業者情報の連携 | 次の相手方を特定 |
| 消去禁止命令 | 通信記録の保全 | 情報消失を防止 |
| 削除仮処分 | 投稿の非表示 | 被害拡大を抑制 |
これらの手続きは役割が異なり、開示命令を申し立てただけで投稿が削除されるわけではないため、削除も必要な場合には別途、運営会社への任意請求や保全手続きを検討します。
利用したSNS、投稿方法、ログインの有無、携帯電話番号の登録状況などにより必要な申立てが変わるため、一般的なフローをそのまま自分の事件へ当てはめず、保有情報を想定した方針を立てることが大切です。
特定後に示談か訴訟を選ぶ
投稿者の氏名と住所が判明した後は、弁護士名で損害賠償、削除、謝罪、再投稿禁止などを求める通知書を送り、裁判外の交渉で解決できるかを検討するのが一般的です。
相手が責任を認め、金額や再発防止条件に合意すれば、訴訟を行わず示談書を作成して終了できるため、裁判の申立手数料や長期の対応負担を抑えられる可能性があります。
一方で、投稿者が権利侵害を否定する、請求額に大きな隔たりがある、連絡を無視する、同様の投稿を続ける場合には、民事訴訟によって責任と損害額の判断を求めることになります。
- 示談交渉で金銭を請求
- 投稿やアカウントを削除
- 謝罪文の内容を合意
- 再投稿禁止を約束
- 訴訟で損害額を確定
- 未払い時に強制執行
示談金を早く受け取ることを優先するのか、公開の判決で違法性を明らかにするのかによって適切な方法は異なり、訴訟を選ぶと解決までの期間と弁護士費用が増える可能性があります。
示談書では、守秘義務や違約金の条件を過度に広くすると後の紛争につながるため、金額だけで判断せず、どの投稿を消すのか、何を再投稿とみなすのか、支払期限をどうするのかを具体的に定める必要があります。
裁判に進む前に確認したい勝算

費用を支払えば必ず匿名投稿者を特定できるわけではなく、発信者情報開示には権利侵害が明白であることや、情報を取得する正当な理由があることなど、法律上の要件を満たす必要があります。
投稿が不快であるというだけでは足りない場合があり、名誉権、名誉感情、プライバシー、肖像権、著作権、営業上の利益など、どの権利がどの表現によって侵害されたのかを整理しなければなりません。
勝算を十分に検討しないまま高額な開示手続きを始めると、情報が開示されず、着手金も戻らない結果になり得るため、投稿ごとの評価と証拠の質が費用判断に直結します。
批判と権利侵害を分ける
名誉毀損が問題になる投稿では、一般の閲覧者が誰について述べたものと理解するか、その人の社会的評価を低下させる内容か、事実の摘示なのか意見や論評なのかなどが検討されます。
事実を述べた投稿であっても、公共性、公益目的、内容の真実性などが争点になる場合があり、被害者にとって腹立たしい表現だからという理由だけで直ちに違法になるわけではありません。
単なる低評価やサービスへの不満、政策への批判、作品への感想は表現の自由として保護される余地がある一方、根拠なく犯罪者と断定する投稿、私生活上の秘密を暴露する投稿、人格を執拗に攻撃する投稿は権利侵害が認められる可能性があります。
| 投稿の性質 | 主な検討点 | 注意点 |
|---|---|---|
| 具体的な事実 | 社会的評価の低下 | 真実性などが争点 |
| 意見や論評 | 前提事実と表現方法 | 批判は直ちに違法でない |
| 侮辱的表現 | 表現の程度と文脈 | 一語だけで決まらない |
| 私生活の暴露 | 公開を望まない情報 | プライバシーを検討 |
| なりすまし | 誤認と具体的被害 | 投稿全体を保存 |
同じ言葉でも、投稿された場所、前後の会話、相手との関係、繰り返しの有無によって評価が変わるため、問題の単語だけを抜き出さず、閲覧者が受け取る全体的な意味を検討する必要があります。
依頼前に複数の投稿を一覧化し、権利侵害が強い投稿と不快ではあるものの違法性が不明確な投稿を分けると、開示対象を絞って費用を抑えながら成功可能性を高めやすくなります。
誰のことか分かる必要がある
投稿に実名が書かれていなくても、勤務先、居住地域、過去の出来事、写真、アカウント同士の会話などを組み合わせ、一定の閲覧者が被害者を特定できる場合には権利侵害が認められる可能性があります。
反対に、投稿が抽象的で対象者を判断できず、被害者本人だけが自分のことだと感じている場合には、名誉権などの侵害を主張することが難しくなることがあります。
フォロワーが少ない鍵付きアカウントでの投稿でも、閲覧できる人数、閲覧者と被害者の関係、転載の有無によっては被害が認められる余地があるため、公開アカウントでないという理由だけで諦める必要はありません。
- 実名や芸名が記載されている
- 顔写真や勤務先が示されている
- 過去の出来事と一致する
- 共通の知人が理解できる
- 返信先から対象者が分かる
- プロフィール情報で絞り込める
特定可能性を説明するには、投稿本文だけでなく、プロフィール、過去投稿、引用された記事、閲覧者から届いた連絡などを保存し、第三者がどの情報から自分だと判断したのかを示すことが有効です。
個人名が出ていない投稿ほど法律評価に幅が生じるため、開示費用を支払う前に、対象者の特定可能性について弁護士から具体的な見通しを聞くことが重要です。
通信記録には時間の制約がある
SNS事業者や接続プロバイダが保有する通信記録は、法律上すべて同じ期間保存されるものではなく、事業者の運用や情報の種類によって保存状況が異なるため、長く放置すると必要な情報をたどれなくなる可能性があります。
投稿が削除されていても、URL、投稿日時、画面保存などがあれば相談できる場合はありますが、削除された時点から時間が経つほど運営会社が投稿情報や通信記録を確認できないリスクは高まります。
費用の準備に時間が必要であっても、まず相談だけを行い、どの記録をどの事業者に保存してもらう必要があるのかを確認すれば、手遅れになる危険を減らせます。
投稿者に対する損害賠償請求には消滅時効の問題もあり、被害と加害者を知った時期などによって期限の計算が変わるため、投稿が古い場合は民法の不法行為に関する規定を踏まえた個別確認が必要です。
記録保存の期限と損害賠償請求の期限は同じではないため、時効まで余裕があるように見えても、匿名投稿者を特定するための通信記録が先に失われる可能性を意識する必要があります。
裁判費用を抑える現実的な方法

SNSの匿名誹謗中傷に対する支出を抑えるには、弁護士へ依頼しないことだけを考えるのではなく、目的に合わない手続きを減らし、証拠整理や料金比較を通じて必要な作業へ予算を集中させることが効果的です。
専門知識が必要な申立てを無理に本人だけで進め、情報の指定や相手方を誤ると、申立てをやり直す間に通信記録が消える危険があるため、節約と成功可能性のバランスを考えなければなりません。
無料相談、法テラス、弁護士費用保険、段階的な依頼などを組み合わせれば、一括して高額な契約を結ぶより負担を管理しやすくなる場合があります。
最初に目的を一つ決める
費用を抑える最も基本的な方法は、削除、特定、謝罪、慰謝料、刑事処分のうち、現時点で何を最優先にするのかを決め、目的に直結しない手続きを後回しにすることです。
被害情報が検索結果に表示され続けて仕事へ影響しているなら、まず削除を優先する考え方があり、同じ人物が繰り返し投稿しているなら、発信者を特定して再投稿禁止を求める必要性が高くなります。
一度だけの投稿で拡散が止まり、既に削除されている場合には、高額な開示費用をかけて慰謝料を請求するより、証拠を保管して再発時に備える選択が合理的なこともあります。
- 今すぐ投稿を消したい
- 投稿者の氏名を知りたい
- 今後の投稿を止めたい
- 金銭的損害を回収したい
- 謝罪と訂正を求めたい
- 刑事事件として相談したい
目的が二つ以上ある場合には、最初の段階で必須の手続きと、結果を見てから追加する手続きを分け、段階ごとの見積もりを作ってもらうと途中で方針を変更しやすくなります。
感情が強い時点では相手を特定すること自体が目的になりやすいため、特定後に何を求めるのか、相手が謝罪しても訴訟を続けるのかまで考えておくと、不必要な追加費用を抑えられます。
見積書は総額で比較する
弁護士費用を比較するときは、着手金の安さだけを見るのではなく、開示成功時の報酬、投稿追加料、出廷日当、実費、損害賠償請求へ移行する料金を合計する必要があります。
着手金が低くても、開示された情報一件ごとに高い報酬が加算される契約や、期日のたびに日当が必要な契約では、最終的な支払額が他の事務所より高くなる場合があります。
反対に、最初の着手金は高く見えても、複数の申立てや損害賠償交渉まで含む一括料金であれば、事件全体では負担を抑えられる可能性があります。
| 確認項目 | 質問する内容 | 比較の視点 |
|---|---|---|
| 着手金 | 含まれる手続き | 一段階か全段階か |
| 報酬金 | 発生する条件 | 開示時か回収時か |
| 追加投稿 | 一件ごとの料金 | 同一人物の扱い |
| 日当 | 期日ごとの金額 | オンライン期日の扱い |
| 実費 | 通常の見込額 | 海外対応の有無 |
| 不成功時 | 返金の条件 | 着手金の扱い |
相談後には口頭説明だけで契約せず、委任契約書と見積書を受け取り、消費税を含む金額、追加料金が発生する場面、中途解約時の精算方法を確認することが重要です。
複数の事務所へ相談する場合には、同じ投稿資料と同じ希望条件を提示しなければ正しく比較できないため、投稿一覧、希望する結果、現在の証拠、予算上限を一枚に整理しておくと役立ちます。
公的支援や保険を確認する
経済的に弁護士費用を準備することが難しい個人は、収入や資産などの要件を満たせば、法テラスの無料法律相談や弁護士費用の立替制度を利用できる可能性があります。
法テラスの民事法律扶助は、経済的に余裕がない人を対象に無料法律相談や弁護士費用の立替えを行う制度ですが、法人や団体は対象外であり、事件の内容や見込みについても審査があります。
立替制度は弁護士費用が無条件で免除される仕組みではなく、原則として決められた方法で返済するため、利用可能性と毎月の返済額を相談時に確認する必要があります。
日常生活の保険、クレジットカードの付帯サービス、事業者向け保険などに弁護士費用特約が付いている場合もありますが、SNSトラブルが補償対象か、トラブル発生前の加入が必要か、発信者情報開示まで対象になるかは商品ごとに異なります。
本人申立てで裁判所費用を抑える方法もありますが、開示対象情報の指定、権利侵害の主張、海外事業者への対応には専門性が必要なため、書類作成のみ依頼する方法や初期相談だけ受ける方法も含めて検討すると現実的です。
被害者と投稿者が知るべき注意点

SNSの誹謗中傷事件では、被害者が正しい手順を踏まなかったことで証拠を失う場合だけでなく、投稿者が匿名だから特定されないと思い込み、開示後に高額な請求や訴訟対応を迫られる場合もあります。
被害者と投稿者のどちらにも、感情的な追加投稿、証拠の削除、相手への直接接触によって状況を悪化させる危険があるため、公開の場で争い続けるより法的な窓口を通じて対応することが重要です。
民事上の請求と刑事手続きは目的も費用も異なるため、警察へ相談すれば慰謝料が支払われる、民事裁判で勝てば相手が逮捕されるというように混同しないことも必要です。
被害者が避けたい行動
被害を受けた直後に投稿者へ激しい言葉で反論すると、自分の投稿も侮辱やプライバシー侵害として問題にされたり、相手が証拠を削除して別アカウントへ移動したりする可能性があります。
投稿者の氏名を推測し、証拠がないまま実名や勤務先を公開すると、別人を誹謗中傷する結果になり得るため、発信者情報開示前の特定情報をSNS上で拡散してはいけません。
運営会社へ削除を依頼する前には証拠を保存し、知人から送られてきたスクリーンショットだけでなく、可能な限り自分でも投稿元のURLと表示状況を確認する必要があります。
- 感情的な反論を連投する
- 相手の実名を推測して公開する
- 証拠保存前に削除を求める
- 相手の家族や職場へ連絡する
- 違法な方法で個人情報を探す
- 請求額を公開して威圧する
体調不良、休職、通院、取引の中止など具体的な損害が生じた場合には、診断書、領収書、勤務先との連絡、取引先からの通知などを保管し、投稿との因果関係を説明できるようにしておくことが大切です。
生命や身体への具体的な危害予告、住所の公開、つきまといにつながる投稿がある場合には、費用比較を優先せず、警察や身近な支援機関へ早急に相談して安全を確保する必要があります。
投稿者側にも費用が発生する
発信者情報開示に関する意見照会書が届いた投稿者は、回答しなければ問題が消えるわけではなく、開示の可否について自分の主張を整理し、必要に応じて弁護士へ相談することになります。
情報が開示された後には、被害者側の弁護士から損害賠償、調査費用、弁護士費用、削除、謝罪などを求められることがあり、示談交渉や訴訟対応のために投稿者側にも弁護士費用が発生します。
請求書に記載された金額を直ちに全額支払う義務が確定しているとは限りませんが、投稿を消して証拠を隠そうとしたり、別アカウントで攻撃を続けたりすると、悪質性を示す事情として不利に評価される可能性があります。
| 届く可能性がある書類 | 主な意味 | 対応の要点 |
|---|---|---|
| 意見照会書 | 開示への意見確認 | 期限内に内容を検討 |
| 請求通知書 | 示談条件の提示 | 根拠と金額を確認 |
| 訴状 | 民事訴訟の開始 | 答弁書を提出 |
| 警察からの連絡 | 刑事手続きの可能性 | 事実関係を整理 |
投稿者側が早期に事実関係を認め、削除や謝罪、適切な金額の支払いに応じることで、長期訴訟を避けられる場合はありますが、安易な直接連絡は新たなトラブルを生むため慎重な対応が必要です。
示談書へ署名する前には、支払総額、分割払い、守秘義務、再投稿禁止の範囲、違約金、刑事告訴との関係を確認し、実行できない条件を受け入れないことが重要です。
民事と刑事は別の手続き
民事手続きは、投稿の削除、損害賠償、謝罪、再発防止など被害の回復を目指すものであり、被害者が弁護士へ依頼する費用は原則として被害者自身が準備します。
刑事手続きは、名誉毀損罪や侮辱罪などの犯罪が成立する可能性について警察や検察が捜査し、処罰の要否を判断する仕組みであり、被害届や告訴を提出しただけで投稿者が必ず逮捕、起訴されるわけではありません。
警察が投稿者を捜査しても、その手続きだけで被害者へ慰謝料が支払われるわけではないため、金銭賠償を求める場合には示談や民事請求を別に進める必要があります。
一方で、刑事事件として捜査される可能性がある状況では、投稿者側から謝罪や示談の申し入れが行われることがあり、民事上の解決条件と刑事手続きに関する意向を合わせて話し合う場合があります。
告訴には期間や形式の問題があり、投稿内容によって成立を検討する犯罪も異なるため、処罰を求める場合は民事の開示費用だけを相談するのではなく、刑事対応の経験と追加料金も弁護士へ確認する必要があります。
費用だけでなく目的から対応を選ぶ
SNSの匿名誹謗中傷に対する裁判費用は、裁判所へ納める数千円から数万円の手数料だけではなく、発信者情報開示、削除、示談交渉、損害賠償訴訟に必要な弁護士費用と実費を含めて考える必要があり、投稿者が不明な状態から全面的に対応すれば数十万円から100万円以上になる可能性があります。
ただし、すべての事件で開示、削除、訴訟を行う必要があるわけではなく、運営会社の通報窓口による削除で目的を達成できる場合、開示後の示談で終了できる場合、被害の程度と想定回収額から手続きを見送る方が合理的な場合もあります。
費用倒れを避けるには、投稿のURLや前後関係を早期に保存し、法律上の権利侵害が認められる見込み、発信者を特定できる可能性、投稿者の支払能力、再発防止によって得られる利益を整理したうえで、段階別の見積書を受け取ることが大切です。
弁護士を選ぶ際には、最初に表示された着手金だけで比較せず、開示成功時の報酬、複数投稿の追加料、海外事業者への対応、損害賠償請求への移行費、日当、実費、不成功時の扱いまで確認し、自分が求める結果に必要な範囲だけを依頼してください。
匿名投稿の記録は時間の経過によって失われる可能性があるため、資金面で迷っている場合でも証拠保全と相談は早めに行い、法テラスや弁護士費用保険も確認しながら、金銭回収だけでなく削除、謝罪、再投稿防止、安全確保を含めた最適な対応を選ぶことが重要です。


